木下恵介特集 第六夜『喜びも悲しみも幾歳月』

木下恵介特集、第六夜の今夜が最後ということになります。最終夜は『喜びも悲しみも幾歳月』です。

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(2012/08/29)
佐田啓二

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1957年公開。本作にはおもしろい製作経緯があります。木下は深沢七郎『楢山節考』の映画化を考えますが、松竹の社長は、老親を山に捨てる話であることを嫌って、これを認めません。話し合いの結果、その前に一本興行的にヒットする映画をつくることが条件になります。

そうして出来たのが本作『喜びも悲しみも幾歳月』であり、見事大ヒットとなり、この年の興収ランキング2位になります(1位は『明治天皇と日露大戦争』)。

木下が興行的なヒットを狙って当てた作品だけあって、木下が得意とするテイストの映画であり、職人監督的に撮られた作品であろうと思います。悪く言えば無難で、もっと悪く言えば小手先のテクニックで撮られた映画ですが、木下らしい実験性、チャレンジングな感じがないだけで、決して手抜きではありません。

物語は灯台守夫婦の年代記で、夫の転勤のために、全国を転々とすることになります。その間に子どもが生まれたり、夫婦喧嘩があったり、戦争があったり……といった悲喜こもごもが描かれます。

■「たったいっぺんの見合いで夫婦になった馬鹿な男」の幸福論
ところで本作で興味深い場面があります。高峰秀子演じる有沢きよ子を恋敵として逆恨みした女が、きよ子に対し、「ちょっと見合いしただけで三日目には結婚してしまうような馬鹿な女にあの人の心をとられて……わかるもんか! あなたなんかに本当の恋がわかるもんか! これっぽっちも相手の心がわからないくせに、幸福ヅラして。見ているといいんだわ、あなたが毎日見ているこの海で死んでやるから!」と言い、自殺を図ろうとするのですが、灯台守の同僚に止められます。その男は女を自分の妻のところに連れて行き、女に説教します。男の妻は子どもを失ったことにより精神を病んでいたのでした。

『年鑑代表シナリオ集 1957年版』(三笠書房)にてセリフが確認できたので、追記しておきます(2013 6/7)。藤井たつ子「貴女の旦那様の顔見に来たの。たつた一ぺんの見合いで結婚するなんて、どんな間抜けの顔だか見に来たのよ」「ちょつと見合いしただけで三日目には結婚してしまうような馬鹿な女にあの人の心をとられて。わかるもんか、貴女なんかに本当の恋がわかるもんか。なにこれつぽつちも相手の気持がわからない癖に幸福面して、見ているといいんだわ。貴女が毎日見ているこの海で死んであげるから」

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「わしゃ、こげんなったやつでも、かわゆうて、いじらしゅうて、絶えず抱きしめて愛しているんですたい。それが君の言う、たったいっぺんの見合いで夫婦になった馬鹿な男のすることだというとる(聞き取れず)。君のような、愛情の何であるかも知らず、生きている命の何であるかも知らぬようなおなごに、我々灯台員の苦労も愛情も真実もわかるまい!」
同じく『年鑑代表シナリオ集 1957年版』より引用しておきます。金牧「私はこんなになつた妻でもかわいくつて、いじらしくつて、絶えず抱きしめて、愛しているのだ。それが君のいう、たつた一度の見合いで結婚した馬鹿な男のすることだというのか。君のように愛情のなんであるかも知らず、生きている生命のなんであるかも知らぬような女に、われわれ灯台員の苦労も、愛情も、真実も、わかるものか」

私はこれを聞いて第五夜で取り上げた『野菊の如き君なりき』の民子のことを思い出したのです。何もこの女と民子を同一視しようというのではありませんが、民子もまたナイーブな「真実の愛」に囚われて、与えられた中に幸福を見出すことができなかったのではないでしょうか。

慌てて補足しますが、私は何も現実追従的であれと言っているのではなく、どうしようもない現実や、ありえたかもしれない現実――「今よりマシな人生があるかもしれないっていう悪夢」(山本直樹「見張り塔」)――に苦悩して、生きていけなくなるよりも、動かしようのない現実の中にもささやかな幸福を見出す、生存スキルのようなものを持てないものかと言いたいのです。

■手を振る人々
『野菊の如き君なりき』でも手を振る場面を取り上げましたが、木下作品には手を振る場面が多いような気もします。

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以上、木下恵介特集でした。それではみなさん、さようなら。

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